ホーム母校の窓中川祐治先生

愛媛大学理学部を退職するにあたり


データサイエンスセンター 中川祐治  


理系・文系という区分けが明治時代の富国強兵に基づく分類であることを知っている人は少ないと思いますが、ここでは理系の中でも「理学」と「工学」の違いについてお話ししたいと思います。  

  私が大学院を出て、最初に就職したのは(株)富士通研究所で、社員には当然工学部出身の方が大勢おられ、理学部出身者は一握りでした。入社一年目の新入社員研修で私に課せられたテーマは三次元グラフィックス装置の開発という、当時どのコンピュータメーカーも作っていないものを作るというなかなかハードな仕事でした。メーカーで開発を行うには、研究所以外にハードウェア部門とソフトウェア部門、さらに製品の一貫性を担保する必要があるため、社内規格を担当する部署が加わり、総勢十数名のチームを束ね、ほぼ毎週ミーティングを行っていました。私の役割は、三次元グラフィックスを描画するアルゴリズムの開発とチームをまとめ動かすことです。これは後で分かったことですが、一年後の新入社員研修発表会の席で社長から「これは新入社員研修ではないですね。」と言われ、そのときは何の意味かわかっていませんでしたが、管理職候補試験のレベルだったようです。 さて、話を本題に戻しましょう。チームミーティングは週に一回ありましたが、その間は研究所内のグループで勉強会とアルゴリズム開発の進捗状況報告を積み重ねており、特にアルゴリズム開発では、私の所属しているグループの工学部出身のリーダーと意見を戦わせることが度々でした。リーダーの言っていることは確かに正論で早く結果が出るのですが、『何か違う』という思いがいつもあり、これは一体何なんだろうと悶々としていました。 約4年で(株)富士通研究所を退職し、その後は鹿児島大学、国際基督教大学、そして愛媛大学へと計3回の退職を経て現在に至っています。これは余談ですが、退職にあたって毎回退職願を書かされましたが、(株)富士通研究所だけは毛筆で書くように指示され、字が下手な私にとっては嫌がらせとしか思えませんでした。 今から5年ほど前に、理学部数学科の学生向けに「お茶会」というなんでも喋れる集会があり、その講演を頼まれた時に理学と工学の違いについて、改めて考え直す機会が与えられました。その時にたどり着いた結論は、問題解決のアプローチの違いであることに気がつきました。つまり、工学系出身者の考え方は試行錯誤をなるべく少なくして短いステップで結論(製品)に到達することで、一方、理学系出身者の考え方は原理追求を経て結論(特許・原理)に到達する、という違いがあるということです。この違いに気がついたとき、かつてのモヤモヤが一気に解決した気分でした。 学部や大学院を出て就職した時に、ほとんどの企業では工学系出身者がマジョリティで、理学系出身者はマイノリティとなりがちですが、そこで挫けてしまうのではなく、時間がかかっても原理追求を諦めず、社会(企業)にとって本質的に重要となる原理を見つけて行く努力を重ねて行くのが理学系出身者の使命だと思います。卒業生みなさんのご活躍を期待しています。